東京地方裁判所 昭和42年(ワ)5123号 判決
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〔判決理由〕二、<証拠>ならびに争いのない事実を総合すると、本件賃貸借契約が締結されるに至つた事情は、次のとおりと認められる。
破産者は、昭和四一年はじめ頃四億円以上にのぼる多額の債務をかかえ、多数の債権者から弁済をせまられていたが、その財産としては、本件建物と品川区大井町所在の土地三筆建物二棟のほかは、めぼしい財産がなかつた。この窮状を打開し事業を継続するために、破産者代表者Iは会社更生法の適用を受け再建をはかろうとして、その準備に奔走し、一方当時の監査役MがIの委任を受けて、会社建直しの具体的任務に当たつていた。しかし、破産者が同年二月一日支払を停止し、同月四日破産の申立をされたことから、債権者の追及は急となり、債権者のうちには、直接実力をもつて会社財産を持ち出そうとする者まで生じた。そこで、Mは、たまたま紹介されて知り合つた訴外Iと相談のうえ、債権者のこのような強硬な取立に対抗し、営業を継続して行くためには、破産者の債務を引受けない別会社を作り、この別会社に破産者の主力財産であり営業を継続するために不可欠の本件建物を工場施設一切とともに賃貸してこの別会社が破産者の事業を運営して行くよりほかに方法はないとして、同年三月七日、Iの関係していたいわゆる休眠会社である三協薬品株式会社の商号、事業目的、役員等を……のとおり変更して、被告会社を成立させた。そして、同月一〇日ごろ開催された破産者の取引業者を中心とする債権者集会において、被告会社がすでに成立していることを秘して、別会社を設立して営業を継続するとの計画案をはかつたところ、出席の債権者はいずれも、別会社が破産者の債務を引受けないのみならず、弁済について具体的な計画をしていない計画案に対して反対の意向を示した。しかし、Mは、この際事業を継続して行くためには債権者に不利益が生じてもやむをえないと考えて、Iと相談したとおり、同月一八日本件賃貸借契約を締結し、以後被告が本件建物を占有している。そして契約締結の際、賃料月額五〇万円、敷金一〇〇万円と定めたが、本件賃貸借の目的は、前記のとおり本件建物等工場施設一切を第三者の賃借権に基づく占有に移すことによつて債権者の追及をのがれることにあつたので、賃料の額は建物の坪数、利益率等を基準として計算したものではなく、本件建物の賃料としてはきわめて低額であることを、契約当事者は知つていた。
三、以上認定した事実からすれば、本件賃貸借契約は、破産者が支払を停止し破産の申立を受けた後に、破産者の主たる財産について債権者の追及をまぬがれるために締結されたものであつて、このような状況における賃借権の設定が本件建物の交換価値を著しく減損するものであることは明白である。
被告は、本件建物には被担保債権額合計一億八八三三万三〇〇〇円の抵当権が設定されていて、これら抵当権の実行による競売が行なわれた場合、被告は本件賃借権をもつて競落人に対抗することができない関係にあるから、このような事情を考えれば約定賃料は不当に低いものではないし、また、被告の占有は本件建物の競売価額を低下させるものではないと主張し、<証拠>によると、本件建物に被告主張の抵当権が設定されており、被告は本件賃借権をもつて、これらの抵当権の実行による競落人に対抗できない関係にあることが認められる。
しかしながら、破産財団に属する建物を別除権者が破産手続外で換価する場合においても、建物が破産管財人の管理下にある場合と、たとえば競落人に対抗できない権原に基づくものとはいえ第三者が占有する場合とでは、その競落価額に事実上無視できない差異が生ずることは顕著な事実である。それ故、本件において本件建物が被告の占有するままで競売される場合は、破産管財人の管理下にある場合に比し、その競落価額は低下し、したがつてこの売却代金によつて別除権者が弁済を受ける債権額は少なくなり、ひいては破産債権者の配当額も少なくなる結果になることが推認される。してみれば、他に反証のない以上、本件賃貸借契約は破産債権者を害する行為であるといわなければならない。
四、そして、本件賃貸借契約締結にあたり、破産者代表者Iを代理したMが、破産債権者を害する意図をもつて契約を締結したことは、前記認定事実から明白である。
被告は、当時の被告代表者Iが破産債権者を害すべき事実を知らなかつたと主張するが、これを認めるに足りる証拠はなく、かえつて前記認定事実によれば、Iも破産債権者を害することを知つて本件賃貸借契約を締結したことが認められる。
五、以上の事実によれば、本件賃貸借契約は、破産者が破産債権者を害することを知つてした行為に該当するから、原告が破産法第七二条第一号に基づき本訴において同契約を否認したのは正当である。
否認権が訴によつて行使された場合、否認権行使の効果は、その訴状が被告に到達したときに効力を生ずると解すべきであるから、本件賃貸借契約は、訴状送達の日であることが記録上明らかな昭和四二年六月一日、破産財団との関係においてその効力を失ない、破産財団は同契約のあつた以前の状態に復帰したものである。したがつて、被告は原告に対し、本件建物を明け渡すほか、被告が本件建物を占有していることによつて受けている利益すなわち賃料に相当する金員を支払う義務がある。
<第二>二、被告が使用している……各標章は、多門本陣の文字を筆太体で上から下へ書き下し、この文字の上部に、株式会社という文字を小文字で一行または二行に附記し、あるいは「株」、の小文字を附記したものであつて、その要部は「多門本陣」の部分にあると認められる。この要部において被告使用の各標章が破産者の本件登録商標とその称呼、観念において同一であり、その形状において類似することは、とくに論ずるまでもなく明らかであり、全体としてみるとき被告の使用する各標章は破産者の本件登録商標と類似するものということができる。
三、被告は、これら各標章は被告の商号を示す表示として使用しているのであつて、特定の商品を示す商標として使用しているのではないと主張するけれども、被告は、これら各標章をその製造した菓子の包装、容量、掛紙、しおりに附して、これを販売し、またこの菓子に関する広告マッチ、のれんに附してこれを展示しているのであるから、この行為は、商標法第二条第三項にいう標章の使用にほかならず、したがつて、同条第一項により、被告は各標章を商標として使用しているものといわなければならない。
四 被告は、前記……本件賃貸借契約の一内容として、破産者から本件商標権につき有償の使用許諾を受けていると主張する。しかし、本件賃貸借契約は、前記述べたとおり、原告の本訴における否認権の行使により破産財団に対する関係でその効力を失なつているのであるから、かりに同契約の一内容として被告主張の有償使用許諾があつたとしても、原告の否認権の行使によりその効力を失つたものといわなければならないから、これを破産財団に対し、有効なものと主張することはできない。被告の主張は失当である。
五、よつて被告が、各標章を、本件商標権の指定商品に該当する被告製造の菓子の包装、容器、掛紙、しおりに附してこれを販売し、また菓子に関する広告であるマッチ、のれんにこれら各標章を附してこれを展示する行為ないし、被告が肩書地所在の本店および各出張売店において、各標章を附した前記の各物品を所有する行為は、いずれも本件商標権を侵害する行為とみなされる。
したがつて、原告が被告に対し、前記各侵害行為の差止めと被告の本店および各出張売店に存在する被告所有の前記包装、容器、掛紙、しおり、広告マッチ、のれんから各標章を抹消することを求める原告の請求は理由がある。また、被告のこれらの行為からみて、被告が各標章を広告マッチ、のれん以外の各種の広告に附してこれを展示することは十分に予想されるところであるから、広告一切について被告が各標章を使用することの差止めを求める原告の予防請求も正当である。(古関敏正 水田耕一 牧野利秋)